1.7 不正アクセスとは?詳しい概念と手法、効果的な対策を徹底解説
1.7 不正アクセス
情報セキュリティにおいて、不正アクセスは深刻な脅威の一つとして位置づけられています。不正アクセスは、組織や個人の情報資産に対する機密性、完全性、可用性を損なう可能性があり、その影響は甚大です。このセクションでは、不正アクセスの概念とその多様な手法、さらにそれらに対する効果的な対策について詳しく解説します。
1.7.1 不正アクセスとは
不正アクセスとは、正当な権限を持たない者が情報システムやネットワークにアクセスし、データの閲覧、取得、改ざん、削除、またはシステムの操作を行う行為を指します。日本では「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(不正アクセス禁止法)によって、不正アクセス行為は厳しく規制されており、違反者には刑事罰が科せられます。
不正アクセスの背景には、金銭的利益の追求、機密情報の窃取、システムの破壊、名声の獲得など、さまざまな動機があります。また、近年のデジタル化の進展に伴い、攻撃者は高度な技術を駆使して巧妙な手口で不正アクセスを試みています。
不正アクセスは以下のような行為を含みます:
- 他人のIDやパスワードを無断で使用:他人の認証情報を盗み取り、その権限でシステムにアクセスする。
- システムの脆弱性を悪用:セキュリティホールや設定ミスを突いて、認証を経ずにシステムに侵入する。
- 不正なプログラムの利用:マルウェアやスクリプトを使用して、システムやネットワークに不正な操作を行う。
不正アクセスは、情報の漏洩や改ざん、サービスの停止など、組織や個人に重大な被害をもたらす可能性があります。そのため、不正アクセスを防止するための対策と意識の向上が重要です。
1.7.2 不正アクセスの方法
不正アクセスの手法は多岐にわたり、攻撃者は様々な技術や手口を組み合わせて侵入を試みます。以下に代表的な不正アクセスの方法を詳しく説明します。
1. パスワードクラック
パスワードクラックは、ユーザーのパスワードを推測または解析して取得する手法です。
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総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)
可能なすべての文字の組み合わせを試行してパスワードを解読します。パスワードの長さや複雑性が低い場合、短時間で突破されるリスクがあります。 -
辞書攻撃
辞書にある単語や一般的なフレーズを組み合わせてパスワードを推測します。英単語や簡単な数字の組み合わせは特に危険です。 -
レインボーテーブル攻撃
ハッシュ値と元のパスワードの対応表(レインボーテーブル)を利用して、パスワードを逆算します。
対策:
- 強固で長いパスワードの使用(英大文字、小文字、数字、記号を組み合わせる)
- パスワードの定期的な変更
- アカウントロックアウトポリシーの設定(一定回数の失敗でアカウントを一時的にロック)
2. フィッシング詐欺
フィッシング詐欺は、偽のメールやウェブサイトを使ってユーザーから認証情報や個人情報を詐取する手法です。
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偽装メールの送信
銀行や有名なオンラインサービスを装ったメールを送り、緊急性を装ってユーザーを誘導します。 -
偽サイトへの誘導
本物に似せたウェブサイトを用意し、ユーザーにログイン情報やクレジットカード情報を入力させます。 -
SMSフィッシング(スミッシング)
SMSを使って偽のメッセージを送り、リンクをクリックさせます。
対策:
- メールやSMSの送信元や内容を慎重に確認する
- 公式サイトやアプリから直接ログインする
- 二要素認証の設定
3. マルウェアの感染
マルウェアは、悪意のあるソフトウェアで、不正アクセスのために使用されます。
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トロイの木馬
有用なソフトウェアに見せかけてインストールさせ、バックドアを設置します。 -
ランサムウェア
ファイルを暗号化し、復旧のための身代金を要求します。 -
キーロガー
キーボード入力を記録し、パスワードや個人情報を盗みます。
対策:
- 信頼できないソフトウェアや添付ファイルを開かない
- セキュリティソフトウェアの導入と定期的な更新
- OSやアプリケーションの最新アップデートの適用
4. ソーシャルエンジニアリング
ソーシャルエンジニアリングは、人間の心理的な脆弱性を利用して情報を引き出す手法です。
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なりすまし
システム管理者や取引先を装い、情報を要求します。 -
プレテキスティング
架空のシナリオを作り、ユーザーを信用させます。 -
テールゲーティング
正規のユーザーに続いて物理的なセキュリティを突破します。
対策:
- 個人情報や認証情報を安易に他人に教えない
- 身元確認を徹底する
- セキュリティ教育の強化
5. 脆弱性の悪用
システムやアプリケーションの脆弱性を突いて不正アクセスを行います。
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SQLインジェクション
データベースへの不正なSQLクエリを挿入し、データを取得または操作します。 -
クロスサイトスクリプティング(XSS)
悪意のあるスクリプトをウェブページに埋め込み、ユーザーのセッション情報を盗みます。 -
ディレクトリトラバーサル
ファイルパスを操作して、許可されていないファイルにアクセスします。
対策:
- 入力値の適切なエスケープやバリデーション
- 最新のセキュリティパッチの適用
- セキュアコーディングの実践
6. 中間者攻撃(Man-in-the-Middle Attack)
通信の途中に介入し、データの傍受や改ざんを行います。
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偽のWi-Fiアクセスポイント
公共の場で偽のアクセスポイントを設置し、接続したユーザーの通信を盗聴します。 -
SSLストリッピング
HTTPS通信をHTTPにダウングレードさせ、暗号化されていない通信を盗聴します。
対策:
- SSL/TLSを使用した暗号化通信の徹底
- 信頼できるネットワークのみを使用
- セキュリティ警告の無視をしない
7. セッションハイジャック
ユーザーのセッションIDを盗み取り、なりすましてアクセスします。
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Cookieの盗難
XSS攻撃やマルウェアを利用してセッション情報を取得します。 -
セッション固定攻撃
攻撃者が事前に特定のセッションIDをユーザーに割り当て、そのセッションを利用します。
対策:
- セッションIDの暗号化と適切な管理
- セッションタイムアウトの設定
- HTTPS通信の使用
8. バックドアの利用
システムに設置されたバックドアを利用して、不正アクセスを行います。
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開発者による意図的な設置
開発や保守のために設置されたバックドアが残存するケース。 -
マルウェアによる設置
感染したマルウェアがバックドアを設置し、攻撃者がリモートから操作。
対策:
- システムの定期的な監査と脆弱性診断
- 不要なアカウントやサービスの削除
- ファイルの整合性監視ツールの導入
9. 無線LANへの不正接続
セキュリティが不十分なWi-Fiネットワークを利用して、内部ネットワークに侵入します。
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暗号化方式の突破
WEPや古いWPAの脆弱性を突いてパスワードを解読。 -
SSIDのステルス化の欠如
公開されているSSIDを利用して不正接続。
対策:
- 強力な暗号化方式(WPA3など)の使用
- SSIDの非公開化
- MACアドレスフィルタリングの導入
10. その他の手法
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ディレクトリトラバーサル攻撃
ファイルパスを操作して、システム内の重要なファイルにアクセス。 -
パスワードリセットの悪用
パスワードリセット機能を悪用して、他人のアカウントにアクセス。 -
サプライチェーン攻撃
ソフトウェアやハードウェアの供給元を攻撃し、製品にバックドアを仕込む。
対策:
- 入力値の検証とサニタイズ
- パスワードリセット手順の強化(本人確認の徹底)
- 信頼できるサプライヤーの選定とセキュリティ評価
不正アクセスへの総合的な対策
不正アクセスを防止するためには、技術的な対策だけでなく、組織全体でのセキュリティ意識の向上が必要です。
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セキュリティポリシーの策定と遵守
組織の情報セキュリティに関するルールを明確にし、全従業員が理解・遵守する。 -
従業員教育と啓発活動
定期的なセキュリティトレーニングを実施し、最新の脅威や対策を共有。 -
アクセス制御の強化
アクセス権限を必要最小限に設定し、不正アクセスの機会を減少。 -
監視とログの分析
ネットワークやシステムの活動を監視し、不審な動きを早期に検知。 -
インシデントレスポンス計画の策定
セキュリティインシデント発生時の対応手順を定め、迅速な対応を可能にする。 -
定期的なセキュリティ診断
脆弱性診断やペネトレーションテストを行い、システムの弱点を早期に発見・修正。 -
最新情報の収集と適用
セキュリティベンダーや公的機関からの最新情報を収集し、適切な対策を実施。
不正アクセスは常に進化し続けており、新たな手法が次々と生まれています。そのため、組織や個人は継続的にセキュリティ対策を見直し、強化する必要があります。技術的な防御だけでなく、人間の意識改革も重要な要素です。全ての関係者がセキュリティに対する高い意識を持つことで、不正アクセスのリスクを大幅に低減することが可能です。